2009年はグレン・ベックが大活躍した年だった。HLNでくすぶっていたベックがFox News Channelで番組を初めて1年経とうとしている。
前述した続きのデータを亡くし、年明けに再び書き直す。
グレン・ベックは3月に「9/12プロジェクト」を放送し、それとは別に「ティー・パーティー」ムーブメントも放送。一方で6月末にレイシスト発言をした。「オバマは白人に憎悪を抱いている」とした上で「彼は人種差別主義(逆差別)だ」とコメントしている。これで8月、広告主がベックの番組から別番組に鞍替えする事態が起こった。ボイコットした企業は60社に及ぶとか言われているが、Gawkerでリストが掲載されている。そのGawkerにベックの番組の広告料金が下降線を辿ったとも報じられた。
#New Republic
そんな中でベックは休暇を取り、休暇明けから「ニュー・リパブリック」キャンペーンを始めた。このキャンペーンはベックに対する逆風をもろともせず、伝統的な保守の立場として、彼自身が抱く疑問を呈した。「ニュー・リパブリック」つまり「新しい共和政―アメリカの著名な雑誌名でもある」は保守の立場から見れば理のかなったものだ。なにせ今年、共和党が弱体化してしまったと大いに叫ばれ、次の選挙に向けて再建を図る事が急務だと思っているのだから。
5日連続の最終日には「In or Out 2010」と題したセグメントの中で、次の中間選挙を据えて、ベックは政治家へ向けて、そして親愛なるといえば大袈裟か視聴者へ向けて5か条を記した(原文は最後に記す)。それは明らかなリアリズム・つまり現実主義ないしは保守主義、なんなら民族主義をも連想させる宣誓だ。わかり易いのは原油輸入量を減らして国内資源に頼ることで産油国の介入を防ぐという考え方だ。
ベックは洗い直しをするようにトピックを取り上げている。ライバルのニュースメディアについても容赦ない。そしてオバマを共産主義・社会主義・独裁者とありったけの言葉で賛辞を送っている。
結果として、8月末から固定客が大幅に増加したように受け取れる。9月以降視聴者では200万人は下らず、9月平均は280万人。CNNやMSNBCらとは雲泥の差がある。時にFNCの頂点に君臨するビル・オライリーを上回る視聴者を獲得している。ちなみにテレビ以外でも人気はあり、現在でもコンスタントに本を執筆してベストセラーとなり、ラジオのリスナーは800万人の聴取者を数え、全米で5本の指に入る。
このキャンペーンのあと、翌週9月2日のNBC/MSNBCが入居するロックフェラーセンター批判へとつづく。
ロックフェラーセンターは1930年代を中心としたビル群で、当時のアールデコ・ゴシック建築を反映された作品が多い。そこにある壁面アートのあちこちに共産主義・ファシズムを意図する作品が並べられている、という趣旨だ。ベックがひとつひとつの作品の「意図されたメッセージ」が何かを講義する。
これは意外なことだった。ロックフェラーは石油成金なのに、と思うだろう。実際にそうだ。ジョン・ロックフェラーはプロテスタント。あのビル群は息子のジョン・D・ロックフェラーが計画した。共産主義とはかけ離れているように捉えられるではないか。それに彼の子孫達は政治家へ転身したものが多いが、民主党員もいれば共和党員もいる。
これに対してモダンアートを扱うブログModern Art Notesなどが反応を示すように、よく知っていれば「だからどうした」という話だ。映画化もされているフリーダ・カーロの元夫、ディエゴ・リベラ。彼は共産主義を自負し、ロックフェラーセンターでの仕事でも共産主義を忍ばせる作品を残し物議を醸した。クライエントにとっては竣工して蓋を開けたらまさかの彫刻を目にする事になり、リベラと揉めに揉めた。20世紀のロックフェラーは財団に代表される慈善活動を行っているが、絶対な資本主義者集団に紛れこませたファシズムとは事実は小説よりなんとやら。
先述したバン・ジョーンズ批判にしろ、オバマ政権の怪しいところ、オバマそのものやその周辺へ疑問の目を向けている。共産主義・社会主義・国際協調主義・独裁者・・・あらゆる言葉を尽くしてオバマを攻撃している。これが2001年のブッシュならテロ事件からアフガン・イラクに至る過程において「戦時体制」で自身への攻撃を揉み消す事が出来たが、今のオバマは違う。批判を無かった事にする口実が今のところ無いからだ。
#オバマは理想主義か協調主義か
オバマは国際関係論では現実主義ではなく多元主義の立場に近く、保守/リベラルで篩い分けると明らかにリベラルだ。外交で核軍縮を唱える初めての大統領という立ち回りをしようとし、これは国際関係論の初期にある理想主義的考えに等しい。この理想主義は。イラクよりアフガンを重視した戦略、医療保険制度改革、これらが従前の「伝統的」保守主義者を逆撫でする。
その怒りがCNBCのリック・サンテリ (Rick Santelli)が放送中に「シカゴ(の五大湖)でボストン茶会をやるぞ」と発言したのが発端の3月「(アンチ)ティー・パーティー」騒動となり、FNCは色々とパーティーという名の集会を盛り上げた、悪い表現では騒ぎを中継する事で加担した。これにはサンテリ自身が驚いた事だろう、彼はパーティーを無視して嵐が過ぎ去るのを待った。
さて、ベックは社会主義・共産主義・ファシズムという言葉をよく使う。これらは20世紀、1970年代までアメリカの敵だった。この敵はソ連の崩壊と共に消え失せたと思えば―表面上では1989年か91年というのだろうか―、今こうして大統領の面をかぶった新たな敵が登場した、という事だ。しかし、それは先の資本主義が対立した戦争ではない。アメリカ国内での「白人への憎悪」だ。ベック自身がオバマは毛嫌いしていると評しており、レイシスト発言の際にも発言している。
ここで闇雲に二項対立させてしまうとしよう。共和党v民主党の背景には、保守vリベラル、現実主義v理想主義、中間層v低所得者、郊外v市街地、白人vその他(黒人大統領)と、勝手に分類できる。これには選挙の投票行動の根拠があり、低所得、カラーは民主党候補に投票する嫌いがある。だから、1980年代以降の選挙結果は「どの党がどの州で勝利するか」なぞは自ずと決まってきて、激戦州を絞り込んで効率良く戦う事だって可能になってくる。
とりあえず、これからしばらくは「保守vリベラル」ではない。数十年前まで遡りする必要があるようだ。冷戦以前の「保守vコミュニスト」であり、今後如何によっては「白人v黒人ヒスパニック」に焦点を当てさせるだろう。ちょうどいい頃にCNNが2008年からドキュメンタリー『ブラック・イン・アメリカ (Black in America)』を開始。今年は新たに『ラティーノ・イン・アメリカ (Latino in America)』を立ち上げている。
#Race for 2012
ベックに保守の未来がかかっているのだ。なにしろ次の大統領選挙を担うスターの登場が急務なのだ。次の共和党を支えるのはラッシュ・リンボーだと言われてしまうくらいに。関係ないが、ボビー・ジンダルが一般教書演説の反対スピーチで結果を残せばスターになれたものを、オドオドしてしまってこき下ろされた。サラ・ペイリンも人気者だが彼女はポピュリズムに走る節があり、本当に不安だ。日本だって自民党は本格的に下野したが、早速弱体化を危惧し、6割の有権者は再建を望んでいる(読売新聞の世論調査では66%)。
1994年の中間選挙の共和党勝利はラッシュ・リンボーが貢献した。2004年の大統領選挙はキリスト教保守の結束力がブッシュ再選へ導いた。2010年の中間と12年の大統領選挙の立役者は彼になるのだろうか。ただ問題は大統領候補者として相応しい人物がちっともいない事にある。ベックは2008年の共和党氏名争いではミット・ロムニーを支持した筈だが。
しかし、ベックはかわいい。なぜなら、たまに「私は泣き虫だ」と言うから・・・では全然無くて、時折ミスをする。ニュー・リパブリックの4日目、エンディングでこれまで登場したキーワードを集めて整理した時の事。「Obama, Left, Internationalist, Graft, ACRON style organization, Revolutionaries, Hidden agendas,・・・そしてY。OLIGARHY、そう『寡占(少数)独裁者』だ」と。本当に彼の為に用意されたかのようだ。.
「Oligarchy」翌日ベックはリベラル系ブログが大騒ぎだったとして、間違いを認める。Cは実際にあると1週間の番組を振り返るVTRを見せ「Czar」と訂正している。
MSNBCのキース・オブラーマンにしっぺ返しを食らった。ベックは番組で、彼自身のオフィスにはソビエト製の置物があると言っているじゃないか、それを文鎮代わりにか?と。そして、FNCと親会社ニューズコーポレーションが入居するビルが1211アメリカズ、つまりロックフェラーの関与の度合いが薄くても、まがいなりにもロックフェラーセンターの一翼なのだった、というオチだった。
10月8日のコメディセントラル『コルベア・リポート』でスティーブン・コルベアーはベックのパフォーマンスを取り上げた。似ているというかベックが真似したとでもいうのか。あくまでコルベアーはコメディアンで揶揄しているに過ぎないが。
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