いま、アメリカで最も怒れる男、グレン・ベック (Glenn Beck)が雑誌タイムの表紙を飾った。ただタイムの見出しは「イカれる男(Mad Man)」だが。いかにも憎たらしく舌を出して、とてもベックのキャラクターを活かしきった表紙だ。とにかく今、グレン・ベックなくしてアメリカは盛り上がらない。

どうも過去にラッシュ・リンボーが表紙を飾った時とオーバーラップさせるウェブサイトがちらほら。たとえば NewsBustersとか。
彼の番組『Glenn Beck』では民主党オバマ政権と真っ向から対決姿勢を見せている。Fox News『Fox and Friends』で「オバマは人種差別者」発言をして、広告主から逃げられたのはもう過去の事だ。クビになるかと心配したのがもう無かったかのようだ。
休暇から帰ってくると番組独自の企画も取り組む。8月24日から5日連続で現在降りかかる問題を振り返る「ニュー・リパブリカン」では「保守・共和党」の立ち位置を再確認する機会となった。オバマ政権、むしろバラク・オバマへの批判か。翌週はバン・ジョーンズへの疑惑を取り上げている。これは後述する。
#You are not alone, 9/12project
3月の「ティー・パーティー」ムーブメントにまで遡る。15日がティー・パーティーデモ本番だが、13日に番組は正式に企画として「9/12プロジェクト」を立ち上げた。9 つの原則/道義(Principles)、 12の価値感(Values)だ。もちろん9/11、つまりアメリカ人なら誰しもが「同時テロの日」を連想する。そして9/11でなく、その翌日「9/12」を選んだ。11でも12でもいい話で、キーワード集めなんて調整がつくのだ。9つのプリンシプルにはジョージ・ワシトンとトマス・ジェファーソンの言葉を引き合いに出していて、バリューは2月の番組で「You are not alone」と題したコラムで既に登場している。
最終的には9月12日、ワシントンなどでデモ集会を開催。ベックが特別番組を組んで生中継した。もちろん主催はFNCではないし、ベックでもない。しかし、わざわざベック自身が、土曜日の、普段の放送時間帯でない昼間に、他のレギュラー番組を移動させてまで放送する必要がどこにあったのか。リポーターを派遣させて群衆に発破をかける必要性はどこにあるのか。あ、そうではなくて、群衆はすでに盛り上がっていたのだ。
ついでにFNCは「このムーブメントをFNCしか中継しなかった、CNNやMSNBCはしなかったではないか」という新聞広告を掲載。これにCNNが反論するといういざこざもあった。
#希望と怒り
ではなぜ9/12なのか。もっとも分かりやすいのは12バリューのキーワードとしてでも登場するが「希望」だ。2008年の秋、突然の宣告により不況の波が襲い、2009年になって共和党の再生が叫ばれて、オバマは社会保障や国防政策を大幅転換しようとしている。保守や市場原理主義者、または中間層。彼らが持つこれに反発する怒りと、希望の光を掴み取ろうとする潜在意識、これをイベント化する事で表になって出てきた。
怒りの矛先は自由主義経済でなく、福祉国家制度へ移行する行為になのか。そうでなければ共和党政権は何をしてきたと主張されるのか。ブッシュはイラク戦争をしなかったらもっとマシだったかもしれない、というのはもう遅い。共和党候補で財政再建の実績があるミット・ロムニーを選んでいたら、とか言っている場合ではないのだ。だから、矛先はホワイトハウスへ向かうのだ。
制度改革で恩恵を受けるのはこれまで加入率の低い都市生活者であり、ヒスパニックやアフリカン・アメリカンの比率が高く、民主党支持者が多く、都市生活者は案外低所得者だったりする。ある程度給料をもらっているなら郊外で暮らして自動車通勤をするのだ。とは言ってもNYは違う。
オバマの医療保険制度改革への批判は大きな政府を目指す事への批判であり、保守層・共和党支持者は増税や財政危機に脅かされている。―もちろん財源問題などの理由もあるが、負担を強いるのは中流以上の階級で、近年の共和党支持者に郊外に住む中流層が多い―
新自由主義とは経済・社会政策において「小さな政府」を目指し、税負担を軽減することが経済発展につながるとしたのだ。オバマの改革はこの30年の方向性とは明らかに違ってくる。
#ベックの挑発
普段、番組の進行は形式化されているが、このように特別企画にも注力している。その多くは保守の立場をとる彼が民主党オバマ政権やリベラルのニュースメディアなど相対する立場へ突きつける疑問であり、ある種の「対決」である。ただ、多くの人は対決と感じてはいないだろう。リベラルに立場を置くものがそう感じ取るだけだ。もしかしたら子供の駄々こねかも知れない。
ベックの言動は注目されている。それは彼のポリシーに共感するかしないか、それ以前の次元で起こっている。とても挑発的だからだ。
それは1週間の休暇が明けた8月末、効果が明確に現れる。
最後に律儀にジョン・スチュアート。彼の『デイリー・ショー』で9/12デモとFNCをおちょくっている。10月12日にはLGBTのデモがあったのだが、これと比べたら面白い。特にFNCのアンカー・リポーターが馬鹿げて見えてくるが、つまりそんな程度のものだと言う事かと思わせる。たとえばゲイデモではABCの中継映像を使用した事に対してスチュアートは「カメラクルーは!?支局から窓越しに撮れるじゃないか!!」と言う。確かにそうだ、スタジオからキャピタル・ヒルを眺めるロケーションにあるのだ。なぜ中継車を手配しなかったのか。理由なんて、、、そんなものだ。
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