「出版会の億万長者」リチャード・デズモンド率いるノーザン&シェルがイギリス地上波第5チャンネル、民放の「ファイブ」を買収した。日本ではちっともニュースではないが、デズモンドは曲者かもしれない。ファイブを変えるかもしれないのだから。
このニュースで判っていること、RTLはファイブを売りたかった。
2008年秋の金融不況を機に広告収入が落ち込み、テレビ産業は打開策を求めた。そのひとつが2009年に行われた、チャンネル4とファイブは経営統合を視野に入れた交渉だった。制作費だけでなく、経営コストも削減出来ないかというわけだが、統合に至ることはなかった。
RTLのファイブの身売りが正式に明らかになったのは2010年5月のことだった。WSJが報じている。更にはBスカイBやITVにも打診していると。そして2ヵ月後に結果が明らかになった。130億円だった。
それは他局の人気番組を奪い取る、という挑発を見せている。これに尽きる。
ITNのニューズ映像は、デズモンドがファイブから出てくる所を取材記者が待ち構え、デズモンドがリップサービスで応える、というもの。ちなみにITNはファイブに向けてニュース番組制作を請け負っていた過去がある。
プランA:番組の引き抜き
「コーリーやXファクター、パノラマをファイブに連れてくる」というのだ。英国発のオーディション番組『Xファクター (The X Factor) 』や夜7時台のメロドラマ『コロネーション・ストリート (Coronation Street) 』これはいずれもITVで放送中だ。ついでに『パノラマ (Panorama) 』があるが、BBCの報道番組だ。これら番組がファイブにもあれば地上波での視聴率も拡大するだろう。
デズモンドが買収する前、2008年にファイブはBBCから『ネイバーズ (Neighbours) 』放映権を取得した。ファイブは『ネイバーズ』に続けて同じオーストラリアのメロドラマ『ホームアンドアウェー (Home and Away) 』も放送しているが、これもITVが手放したあと2001年から放送している。
プランB:リバイバル
デズモンドの関係者によれば、リバイバルも示唆しているらしい。たとえばBBCの看板音楽番組だった『トップ・オブ・ザ・ポップス (Top of the Pops) 』とか、今シーズンで終了が決まっているチャンネル4の『ビッグ・ブラザー』とか。TPOPのフォーマット(番組の形式)権利は海外販売を展開している為にBBCが引き続き所有している。
チャンネル4で放送中で2011年に終了する『ビッグ・ブラザー (The Big Brother) 』もファイブに来るかもしれない。フォーマットの所有者がファイブの買収を示唆していた。しかし、関係の無いデズモンドが取得したのだから、二者の間が心穏やかでないかもしれない。
プランC:リニューアル
私個人としては報道・情報番組への改革が必要ではないかと思う。『Five News』はITNへの委託だったが、2004年からSky News が番組制作を行っている。開局期にファイブは朝昼晩に発注していたが規模を縮小、昼の5分間と夕方の30分・それにゴールデンタイムに1分間のニュースフラッシュを放送している。ちなみに放送時間や人員整理などの規模縮小はチャンネル4やITVでも行われている。
しかし。スカイニュースが制作しているのだから、経費を抑えたいのならSky News の同時放送をしないのか、と思ってしまう。親会社のニューズコーポレーションはSky News を地上デジタル多チャンネル放送のフリービューから撤退させている。撤退前から視聴率でBBCニュースの24時間チャンネルに追い抜かれたままだ。土曜の朝1時間、同時放送をしているが、なぜその時間だけ放送しているのだろうか?
一方でSky News が制作する『Live from Studio Five 』が全く成績が良くない。計画が明らかになった時、ガーディアンに『Five and Friends 』と喩えられた様にFox Newsの『Fox and Friends 』を想定したのだが、若年層に狙いを定めすぎて「どうなんだか」。
デズモンドの新生ファイブは予算の上乗せを期待する。広告収入が危ういのでデズモンドは予算を補填するのだろう。
残念なファイブ
残念なことって色々ある。自社制作が少なく、ドラマはすべて輸入モノだ。リスクを犯す余裕はどこにもないが。しかしここでは今年の残念なことをひとつ挙げる。
今年の最も残念な出来事は総選挙で全く触手を伸ばさず、美味しい思いをしなかったことだ。
Sky Newsが音頭をとって実現した選挙戦のテレビ討論 (Leaders Debates) をファイブが放送しなかったことだ。イギリスでテレビニュースを手掛ける3者が持ち回りで開催した討論会、Sky News の回はSky News とBBCニュースチャンネルで生中継し、BBC2で録画放送した。ファイブはなぜ放送しなかったのか?
Sky News は不本意でもファイブで放送する方が視聴者は獲得できる。しかし番組制作を依頼されているだけでニュース速報を随時放送してくれとも、それをSky News を直接放送したいとも言ってない、収入が期待出来ない。自身のチャンネルはすべての広告収入が自分の懐に入る。
ITVで放送した第1回を観て、反響の大きさから7日後に急遽編成することは可能だったはずだ。討論中はCMを放送しない為に広告収入が見込めない。だからファイブとSky News は放送しなかったのか?ファイブが放送を熱望して、それを拒絶し続けたのか?
今年5月の総選挙において、ファイブは開票番組を放送しなかった。例年、BBCは手厚い予算で遂行し、ITNはITVで放送、Sky News は自前のチャンネルでのみ展開する。チャンネル4とファイブは放送しない。ところが、今回はチャンネル4が放送した。ITNに発注せずに「オルタナティヴ」の斜に構えた特番を放送。司会にコメディアンを起用したらITVより好成績を残した。ほとんどスタジオで展開できる構成で、大掛かりな中継は無い。コメディアンが政治を語る土壌の国だから、政党幹部をゲストに招いても成立できる。
これはBBCという王道の選挙特番がいるから亜流の選挙特番を作れるのであり、その美味しいところをチャンネル4に持って行かれた。ファイブには朝のトークショーを仕切るマシュー・ライトにやらせたらいいじゃないか、とか実現不可能ではない。だからやるせない。
ニューズコーポレーションはファイブの新オーナー・ノーザン&シェルのライバル企業でもある。ニューズはイギリスの高級紙『タイムズ』とタブロイド『サン』『ニューズオブザワールド』を所有している「メディア王」。もし、選挙戦の前にデズモンドの買収が決まっていたらどうしたのだろうか、この「たられば」は非常に気になる。デズモンドの名言によれば、出しゃばって「自分でテレビニュースをする」なんて絶対にない。ニュース番組の委託先をITNに変更する、なんて子どもじみたことは・・・あるのかな。
Read rest of entry
このニュースで判っていること、RTLはファイブを売りたかった。
2008年秋の金融不況を機に広告収入が落ち込み、テレビ産業は打開策を求めた。そのひとつが2009年に行われた、チャンネル4とファイブは経営統合を視野に入れた交渉だった。制作費だけでなく、経営コストも削減出来ないかというわけだが、統合に至ることはなかった。
RTLのファイブの身売りが正式に明らかになったのは2010年5月のことだった。WSJが報じている。更にはBスカイBやITVにも打診していると。そして2ヵ月後に結果が明らかになった。130億円だった。
それは他局の人気番組を奪い取る、という挑発を見せている。これに尽きる。
ITNのニューズ映像は、デズモンドがファイブから出てくる所を取材記者が待ち構え、デズモンドがリップサービスで応える、というもの。ちなみにITNはファイブに向けてニュース番組制作を請け負っていた過去がある。
プランA:番組の引き抜き
「コーリーやXファクター、パノラマをファイブに連れてくる」というのだ。英国発のオーディション番組『Xファクター (The X Factor) 』や夜7時台のメロドラマ『コロネーション・ストリート (Coronation Street) 』これはいずれもITVで放送中だ。ついでに『パノラマ (Panorama) 』があるが、BBCの報道番組だ。これら番組がファイブにもあれば地上波での視聴率も拡大するだろう。
デズモンドが買収する前、2008年にファイブはBBCから『ネイバーズ (Neighbours) 』放映権を取得した。ファイブは『ネイバーズ』に続けて同じオーストラリアのメロドラマ『ホームアンドアウェー (Home and Away) 』も放送しているが、これもITVが手放したあと2001年から放送している。
プランB:リバイバル
デズモンドの関係者によれば、リバイバルも示唆しているらしい。たとえばBBCの看板音楽番組だった『トップ・オブ・ザ・ポップス (Top of the Pops) 』とか、今シーズンで終了が決まっているチャンネル4の『ビッグ・ブラザー』とか。TPOPのフォーマット(番組の形式)権利は海外販売を展開している為にBBCが引き続き所有している。
チャンネル4で放送中で2011年に終了する『ビッグ・ブラザー (The Big Brother) 』もファイブに来るかもしれない。フォーマットの所有者がファイブの買収を示唆していた。しかし、関係の無いデズモンドが取得したのだから、二者の間が心穏やかでないかもしれない。
プランC:リニューアル
私個人としては報道・情報番組への改革が必要ではないかと思う。『Five News』はITNへの委託だったが、2004年からSky News が番組制作を行っている。開局期にファイブは朝昼晩に発注していたが規模を縮小、昼の5分間と夕方の30分・それにゴールデンタイムに1分間のニュースフラッシュを放送している。ちなみに放送時間や人員整理などの規模縮小はチャンネル4やITVでも行われている。
しかし。スカイニュースが制作しているのだから、経費を抑えたいのならSky News の同時放送をしないのか、と思ってしまう。親会社のニューズコーポレーションはSky News を地上デジタル多チャンネル放送のフリービューから撤退させている。撤退前から視聴率でBBCニュースの24時間チャンネルに追い抜かれたままだ。土曜の朝1時間、同時放送をしているが、なぜその時間だけ放送しているのだろうか?
一方でSky News が制作する『Live from Studio Five 』が全く成績が良くない。計画が明らかになった時、ガーディアンに『Five and Friends 』と喩えられた様にFox Newsの『Fox and Friends 』を想定したのだが、若年層に狙いを定めすぎて「どうなんだか」。
デズモンドの新生ファイブは予算の上乗せを期待する。広告収入が危ういのでデズモンドは予算を補填するのだろう。
残念なファイブ
残念なことって色々ある。自社制作が少なく、ドラマはすべて輸入モノだ。リスクを犯す余裕はどこにもないが。しかしここでは今年の残念なことをひとつ挙げる。
今年の最も残念な出来事は総選挙で全く触手を伸ばさず、美味しい思いをしなかったことだ。
Sky Newsが音頭をとって実現した選挙戦のテレビ討論 (Leaders Debates) をファイブが放送しなかったことだ。イギリスでテレビニュースを手掛ける3者が持ち回りで開催した討論会、Sky News の回はSky News とBBCニュースチャンネルで生中継し、BBC2で録画放送した。ファイブはなぜ放送しなかったのか?
Sky News は不本意でもファイブで放送する方が視聴者は獲得できる。しかし番組制作を依頼されているだけでニュース速報を随時放送してくれとも、それをSky News を直接放送したいとも言ってない、収入が期待出来ない。自身のチャンネルはすべての広告収入が自分の懐に入る。
ITVで放送した第1回を観て、反響の大きさから7日後に急遽編成することは可能だったはずだ。討論中はCMを放送しない為に広告収入が見込めない。だからファイブとSky News は放送しなかったのか?ファイブが放送を熱望して、それを拒絶し続けたのか?
今年5月の総選挙において、ファイブは開票番組を放送しなかった。例年、BBCは手厚い予算で遂行し、ITNはITVで放送、Sky News は自前のチャンネルでのみ展開する。チャンネル4とファイブは放送しない。ところが、今回はチャンネル4が放送した。ITNに発注せずに「オルタナティヴ」の斜に構えた特番を放送。司会にコメディアンを起用したらITVより好成績を残した。ほとんどスタジオで展開できる構成で、大掛かりな中継は無い。コメディアンが政治を語る土壌の国だから、政党幹部をゲストに招いても成立できる。
これはBBCという王道の選挙特番がいるから亜流の選挙特番を作れるのであり、その美味しいところをチャンネル4に持って行かれた。ファイブには朝のトークショーを仕切るマシュー・ライトにやらせたらいいじゃないか、とか実現不可能ではない。だからやるせない。
ニューズコーポレーションはファイブの新オーナー・ノーザン&シェルのライバル企業でもある。ニューズはイギリスの高級紙『タイムズ』とタブロイド『サン』『ニューズオブザワールド』を所有している「メディア王」。もし、選挙戦の前にデズモンドの買収が決まっていたらどうしたのだろうか、この「たられば」は非常に気になる。デズモンドの名言によれば、出しゃばって「自分でテレビニュースをする」なんて絶対にない。ニュース番組の委託先をITNに変更する、なんて子どもじみたことは・・・あるのかな。
どんなビジネスでも、いちばん難しいのは始めることだ。最初の1億円を稼ぐには、次の1億円を稼ぐよりはるかに大きな努力がいる。イギリスの出版界の億万長者-リチャード・デズモンドより