スカーボロは2002年からMSNBCで番組ホストを担当している。1995年から2001年まで、共和党の下院議員(フロリダ1区)を3期6年勤めた。2003年、イラク戦争が始まる頃に『Scarborough Country スカーボロ・カントリー』は「開国」する。元議会議員がコメンテーターとして活動することは間々あるが、自身のテレビ番組を持つというのは稀な事だ。
その番組の宣伝でワシの姿が見受けられる―保守・共和党をイメージさせる動物の一だけど。番組のクリップを見る限りではスカーボロは日本でいうタカ派ではないと見受けられる。ライバルの保守派コラムニストを批判した事もある。
#朝の顔
MSNBCは1996年に開局したが、直後からドン・アイマスのラジオ番組を放送していた。2007年に人種差別発言への抗議を受けてアイマスはクビとなり、MSNBCは新しいホスト選びを始めた。
アイマスが去った後、普通のニュース番組を放送していた。しかし2週間後からMSNBCはトーク番組を再開。新ホスト候補を実際に喋らせて、その上で正式な後継者を決定しようという算段だった。
このインタームの時期に出演したのはデビッド・グレゴリー(NBCワシントン) や ジム・クレイマー(CNBC)、タッカー・カールソン(MSNBC)、そしてスカーボロなど。NBCユニバーサルの一員が多く、関係が薄い人物は初回の人物くらいか。
結果、スカーボロへの評価が高く、彼が番組ホストに決定。新番組『Morning Joe モーニング・ジョー』はアイマスに倣ってアシスタントを追加。スカーボロの補佐と相槌をし、朝のニュースブリーフを読んでくれる存在を求めた。キャスターのミカ・ブレジンスキとプロデューサー職で転職してきたウイリー・ガイスト。
ちなみに『カントリー』の代役はMSNBC元アンカー、ダン・エイブラムスが担当している。
#アイマスとの比較
ドン・アイマスの頃はただ番組を同時放送する程度で、MSNBCは深く関与しなかった。晩年、スタジオをMSNBCに引っ越した程度か。
スカーボロの『Morning Joe』はMSNBCのコメンテーターは勿論、NBCニュースのスター記者が積極的にゲスト出演する。これは開始当初からの特色で、アイマスに比べてゲストは確実に増えた。(経費全体に占める出演料は増している筈だ)。
しかし、レイティングは芳しく無かった。アイマスの頃30万人台を記録した視聴者が、それより少ない10万人台からのスタートとなったのだ。
# Thank you! Paris (Hilton)
そんな見向きもされない頃、番組の運命を決める出来事が起きた。パリス・ヒルトンの事件である。
2007年、パリス・ヒルトンの逮捕がセンセーショナルになった。そのヒルトンが釈放されたというニュース、ミカ・ブレジンスキ(Mika Brzezinski)―苗字が長い―は原稿を読み上げるのを拒否した。3時間番組で3回読むのだが、最初男性陣は軽い冗談でしょ、と決め込んでいたようだ。ミカはあからさまに読むのを嫌い、2回目は原稿の紙にライターで火をつけようとする。ガイストはライターを取り上げ、スカーボロは「いい匂いだ」なんてふざけてみる。が、怒りが頂点にいったままのミカは8時台、原稿をシュレッダーにかけてしまう。
翌日にシュレッダー事件の顛末を振り返り、笑ってみせるなど大人な対応をしたが、「パリスに憤慨したキャスター」としてAPなどがニュース記事に仕立て、YouTubeでアップロードした映像は300万回視聴されたことになる。
レイティングは一向に改善しない時期だった事もあって、この出来事は番組の存在自体を知らせる為のプロモーションとしては最適だった。なにしろYouTubeであれだけ視聴させたのだから。MSNBCは短命に終わる番組がとても多い。どんな事であれ、一助になったのは確かだ。
# "もうひとつの"成功
2008年、大統領選挙の年はニュース番組の視聴率は上がる。誰がなんと言おうと上がるったらとにかく上がるのだ。『ジョー』もご他聞に漏れず視聴者増加を果たし、ついにはCNN『アメリカンモーニング』と互角に渡り合えるようになり、たまにCNNを追い抜く(これはアイマスの時代にもあった)。ゲストに政治家や関係者が登場する機会が増え、出演するNBCの記者はワシントンにいる。
「もうひとつの成功者」として、ニューズウィークに番組を分析した記事(日本語版でも掲載された)が、これを端的にまとめている。
1) 左右に左右されない
誰しもが「MSNBC=リベラル」と思っている。そして夜の番組が成功した絶対の理由だ。そんな中でスカーボロは元共和党下院議員。彼自身は保守だが経済政策では1980年代からの主流である「リバタリアン/新自由主義」を自認している。マイク・バーニクルやパット・ブキャナンなど『カントリー』からの馴染みも多い。対してブレジンスキーは父・ズビグネフが民主党カーター政権時代のブレーンで、オバマ政権に暗躍しているとか、しているとか―結局は影響力を持つと噂される人物だ。ミカがパリス・ヒルトンの原稿をシュレッダーにかけなければ、とは大げさだが結果として彼女がいるからブッキングしやすく、バランスをとる格好となる。
2) 敷居を低く
トピックのほとんどが政治の話題。ワシントンにいてもいなくても見てもらわないとならない。ひとまず視聴者はついてきているようだ。日本版の記事はワシントンで時計代わりにMSNBCをつける人もいる、としているが。しかし、話が難しいままでは視聴者はPBSで十分だ。
『ジョー』のスタジオは緩やかだ。スタジオセットがオフィスを連想させている。テーブルの上にはラップトップや新聞、コーヒーマグが散らかり、携帯電話で返信する姿がある。これは先輩となるCNBC『スクワークボックス』でも同じ手法をとっている。実際、スタジオの中にある本物のオフィスデスクがNBCニュースのオフィス機能を担っていて、スタッフは本当にそこで働いているのだが。
トークのひとつひとつが長いので、クレーンカメラやステディカムで撮影して躍動感をみせたり、NYタイムズやWSJなど新聞の見出しを紹介したり、スクリーン上の演出も欠かさない。CM前後にはポップミュージックが流れるのもテクニックのひとつだ。
こうして、番組の敷居を低くして身近に接してくれればいい。
3) 友愛・・・というよりか
ケーブルニュースでグレン・ベックやビル・オライリー、キース・オルバーマンが象徴するように敵対心と怒りという演出手法が取り入れられている。『ジョー』では議論が白熱しても案外冷静だったりする。鳩山由紀夫が「友愛」を掲げるが、それはここでも通じる。「逆のベクトル」という表現か。
4) 使ってもらおう
また、ウィリー・ガイストが芸能ニュースの聞き役にまわり、7時前後の「News You Can’t Use」では息抜きにニュースを取り上げる。トーク番組でコメディアンのティナ・フェイが
「初体験はいつか」を話していたとか。一方で他のテレビ番組やブログでとりあげられてもいる。スカーボロがF**kを口にしたとか。こういう事はアメリカのテレビ産業ではよくある事だ。
# コーヒーカラー
ところで、番組のロゴはコーヒーマグの染み跡がモチーフで、スタジオ移転した2007年の秋に創られた。グラフィックはコーヒーブラウンでカラーリングしている。出演者もコーヒーをよく手にしている。NYSEから出演するエリン・バーネットが新スタジオに陣中見舞いした時、スターバックスのグランテカップを手にしていた。そして、2009年6月からはスターバックスがスポンサーとなった。スターバックスはプロダクト・プレースメントとして広告費を払う格好で、契約は年間1000万ドル、実際にテーブルにはスタバのコーヒーが置かれている。ニュース番組におけるプロダクト・プレースメントはコカ・コーラがローカル局で導入したのが始まりで2008年のこと。この時は食品サンプルだったそうだが。今回、最初こそ飲むシーンを意識して撮影していたが、そうでなくなってからも「普通に」飲んでいる。これに関して、賛否の声は多い。たとえばスターバックスが抱える問題は取り上げるのか?と。ジョン・スチュアートも皮肉っている。
で、たとえばスカーボロの出版記念ツアー―つまるところ全米を巡るサイン会―で地盤のフロリダに滞在していた時も1日はスターバックスの店内から中継。9月14日から西海岸を巡ったが木曜日、ジョーとミカはシアトルの1号店から放送した。
コーヒー片手に今日もオフィスから生放送が始まる。
F-Bomb, ‘Morning Joe’ highlights, Stuart on Starbucks
The Daily Show With Jon Stewart | Mon - Thurs 11p / 10c | |||
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