おちょくるとは言葉が悪いが、平たく言えばそうだった。
MSNBCは1996年に開局したのだが、同時期にFox News Channelも開局したのだが、2006年までちっとも成功していなかった。親分のNBCのニュース番組が視聴率でトップを独走するのがちょうど1990年代後半からで、現在も継続中なのに。
実際にはオンラインmsnbc.comはNBCニュースのサイトも同居して成功を収めているが、テレビ放送が収益を上げていない、というのが正しい。MSNBCの合弁相手マイクロソフトはオンライン事業の株を所有してもテレビ事業の株は売り払った。
2006年はMSNBCのテレビ事業が「なんとかなる」ターニングポイントとなった。ブッシュを標的にしたのだ。
キース・オルバーマンの『カウントダウン (Countdown with Keith Olbermann) 』でスペシャルコメントを始めた事だ。そこでのブッシュ批判は『カウントダウン』への認識をただのニュースショーから「モノ言うニュースショー」―どこかの新聞のキャッチよろしく―へ変えた。ブッシュ批判といえば2007年にダン・エイブラムスの「Bush League Justice」もそうだ。MSNBCはブッシュ大統領を批判する事でアンチ・ブッシュの票を集める事ができた。アンチ・ブッシュの殆どはリベラル層で、アメリカテレビニュースの常識から言えばFox News以外のテレビニュースはリベラルのパイの奪い合いをしている、とされている(2008年大統領選挙後の世論調査に基づく)。MSNBCはパイの奪い合いに正面切って挑む格好だった。
そのブッシュ批判にも伏線はちゃんとあった。たとえばオルバーマンのケースでは2005年から始まった「ワーストパーソン・オブ・ザ・ワールド」というコーナーだ。3人の失言や過激発言を槍玉に挙げて「最悪の人」賞を毎日選定するのだが、ビル・オライリーら保守の論客を標的にする事が多かった。とにかく同じ放送時間のライバル、ビル・オライリーには並々ならぬ対抗心を見せている。オライリー自身もMSNBCとNBCニュースを批判している。
このコーナーはせいぜい2分程度のコーナーで、それだけやったらすぐまたCMに入るので、番組全体で言えば弁当の香の物程度でしかない。香の物と言えば「Oddball」程度しかなかったが、種類を増やした格好だ。
#保守派キャスターの場合
翌年、MSNBCの保守派キャスターたちも揃って番組内で香の物をお裾分けする様になる。タッカー・カールソンの「ビート・ザ・プレス」。明らかにNBCのインタビュー番組『ミート・ザ・プレス』を意識させるが、テレビ番組のオフビートを引き合いに出している。
同じようにジョー・スカーボロも行っており、「Must See SC」というコーナー名―NBCのMust see TVから来る―を放送する。これ以外のコーナーでもスカーボロの番組ではハリウッドゴシップを取り上げてみたり、自身でスケッチパロディを演じる「スカーボロ・アンプラグド」をしてみたり、ミニコーナーに力を入れていた。
この変化、ひとつの可能性が言及できる。MSNBCが期待するのは視聴者の中には香の物を目当てにして、見る事で落ち着く、という生理現象だ。そして、「BTP」と「SC」はちょうどダン・エイブラムスがMSNBCを牽引していった頃と重複する。アンプラグドはエイブラムスの発案だ。
#ダン・エイブラムスが率いた2006-08
エイブラムスはNBCニュースの司法担当記者として出世する。2002年、MSNBCで自身の番組『エイブラムス・リポート』を担当するようになるが、2006年にMSNBCの社長―肩書きはゼネラル・マネージャー―として牽引する。この時に番組数を減らすなどしてスリム化を図り、自身もキャスターから裏方に専念し、政治ネタが武器になってゆく下敷きをつくった。
それが2007年、ドン・アイマスの失脚によりエイブラムスがスライド登板する事になった。スカーボロの後任という格好だが、彼なりのコーナーで足固めする。それが「Beat the Press」や「Winners and Losers」などだ。
そして、2007年12月からは不定期で「Bush League Justice」を開始。ブッシュ政権の総決算とでもいうべきか、このコーナーは番組の終焉まで続いた。もちろん『Countdown』でもブッシュ批判は続いており、ブッシュの行動をチェックする「Bushed」も開始、「MSNBC=ブッシュ批判」という図式が生まれる。
しかし、2008年にエイブラムスの時代は終わりを告げる。タッカー・カールソンは2008年3月に終了。後任のデービッド・グレゴリー(現在『ミート・ザ・プレス』のインタビュアーだ)がモデレートするのは『Race for the White House』と、完全に選挙戦を意識した内容だ。同時期、エイブラムスは内容は変わらないものの『Verdict with Dan Abrams』として衣替え、とてもポップなイメージに変わった。しかし、8月をもってVerdictも終了する事となった。
#風刺かニュースか
プライムタイムに放送していたスカーボロ/カールソン/エイブラムスには共通項が見受けられる。ライバルを含むテレビ・ラジオ、プリントなどメディアへの風刺であり、平たく言えばおちょくりである。
そして、参考となる成功事例があった。コメディ・セントラルの存在だ。『デイリーショー』やそのスピンオフ『コルベアー・リポート』はニュースの話題を振りまく人だけでなく、テレビのキャスターやホスト・コメンテーターの発言をネタにして風刺し、批判する。他局の深夜トーク番組でも常套手段として使用しているが、コメディ・セントラルはこれに専念して成功した。
MSNBCの場合も原則としてこの流れに則っている。ただ、観客がいないのでそれほど笑い声は聞かれないが。そうして「批判/風刺を強めて視聴者を集める」作戦は成功した。
したはいいが、現在カールソンとエイブラムスはMSNBCで活動していない。カールソンはシンクタンクの活動を引き受けて、時折Fox Newsにゲストで登場する。エイブラムスはNBCの司法アナリストの肩書きはそのままに、それよりオンラインビジネスの起業家としての活躍が目立つ。残るは朝に移動したスカーボロの『モーニング・ジョー』しかない。
#リベラルでなくて
2008年の大統領選挙で「オバマ寄りだ」と批判を受けたのは実際にそうだったからだけでない。ブッシュおよび保守論客をおちょくったせいで、余計に批判させる動機付けを作ってしまったのだ。
本当にリベラルにシフトするにはまだまだ時間がかかるのだった。
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